ノースマイル
俺の目に飛び込んできたのは、雪の部屋の前で話す雪と見知らぬ男の姿。
雪はいつも一つ結いにしている髪を下ろし、部屋着らしいワンピースを着ている。
男はがたいがよく、少し太めだ。
雨音が邪魔して会話の内容まではわからないが、男は楽しそうに笑っている。
そして、雪も笑っていた。
接客スマイルとは違う。
少し力の抜けた笑い顔。
『素顔』
そんな単語が頭に浮かんだ。
男は雪を抱きしめると、顔を近付けた。
雪はふっと顔をそむけ、苦笑い。
つられて男も苦笑い。
そして雪を放すと、傘を開いて雨の中を歩きだした。
雪はその後ろ姿にほんの数秒間、手を振っていた。
俺は手の中のピアスを強く握りしめた。
痛みが走る。
この気持ちは、何だろう。
新しいオモチャを早々に壊してしまった気分だ。