ノースマイル
「雪が貧血で倒れたんだよ」
帰した彼女のかわりに、一人呼んだ。
「へぇ、あの鉄の女がか」
彼女はバイト仲間から鉄の女と呼ばれていた。
もちろん本人がいないところで。
別にサッチャーと似ているとか、そういうことではない。
笑わない、意志の強そうな目がそういう言葉をイメージさせたのだ。
「びっくりしてさ。涙目になってるし、すげー辛そうだし。『鉄』は取ってもいいかも」
相変わらず客はほとんどなく、暇を持て余した俺たちは二人で話していた。
「それ見てみたいな」
しゃがみ込んで、涙を浮かべてすがるように俺を見る姿は本当に弱々しかった。
平気だと言うのも、ただの強がりにしか聞こえなかった。