【短編】お願い、ヴァンパイア様
「本当にわかってないのだな」

 目を伏せたまま、重そうに口を開く。


 カーテンの隙間から微かに見えた時計では、そろそろお昼休みも終わる。

だというのに、神崎さんは一行に席を立とうとはせず、むしろわたしはありがたいことだった。



「『魔術』には、必ず代償がある」

 凛とした神崎さんの表情に、なんとなく背筋が延びるようだった。

外は暑い日差しが照りつけているのに、すこし寒気さえ感じるほどに。



「椎名さん、あなたが行った『魔術』は失敗だとしても半分は成功している。
……―ということは、あなたには代償が求められる」

 代償?

レンはそんなこと、一つも言っていなかった。


「…まだ掲示されていないのだな。
だけど、一つ言っておく。代償はそんな簡単なものではない」


 キリリと急に釣りあがった眉。


 きっとこんな魔術書なんてなかったら、神崎さんの言葉を笑って聞き流していた。

しかし現実は、こうしてわたしの身に降りかかっている。


真剣にならないわけがなかった。





「主であるあなたの……大切なものだ」


 大切なもの?

わたしは思わず首をかしげた。



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