【短編】お願い、ヴァンパイア様
「大切な気持ちまで、忘れないで?」


 くすりと怪しく笑う、神崎さん。

どこかこの世のものではないようにすら見えてしまう彼女は、何者なのか。


 わたしはもう、知りうることはできないのだろう。


「……はあ、どうも」

 曖昧に答えると、納得したのか彼女も席にすぐ戻る。

そんな一連を見ていた弁当仲間の百合と愛美はものめずらしそうにやってきた。


「椎名ってば、どうやったらあの神崎さんと仲良くなったの?」

 興味本心で聞いてくる百合に、わたしは思わず聞き返した。

「な、仲いいっていうか……」

「最近よく、椎名ちゃんは神崎さんと話してるじゃない?」

 愛美の言葉に、わたしは耳を疑った。

最近、話す?


 わたしは挨拶程度しかしていないのだけど……。

そのとき、ジジジ、とまるでノイズがかかったような映像が脳内をよぎる。



「魔術には、必ず『代償』がある」


 真剣なまなざしでわたしをみているのは―……神崎さん?



 だけど映像は、そのままブチっと消えてしまった。


 なに、これ…?

戸惑いながらも、一種の立ちくらみだと言い聞かせてわたしはもう一度机に向き直る。



「それにしてもさ、椎名。あの翔くんをフッたって本当?」

 別のことを考えていたわたしとしては、百合の質問にビクンと過剰に反応してしまった。



「え?ああ、うん……」

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