きみのて
入学式は短く簡単なものだった。

それでも緊張で疲れてしまい、自宅へすぐに帰ってきた。


部屋へ入ろうとすると、スーツを着ているわたしを目がけてちび太が走ってやってきた。


ちりん、ちりんと鈴の音を鳴らしながらやってくるその子は、まるまる太った白い猫だ。


「ちび太、ただいま。」

「ナァー!」


両手をあげて、跳びつこうとするちび太を慌てて避ける。


「待ってー、今スーツ脱ぐからー!」


ぱたぱたと部屋に戻って、ちび太が入ってこられないように戸を閉める。

その拍子に、どん、と入ってすぐ隣にある棚にぶつかった。


上に載っていた手帳がバサッと落ちる。

手帳から、ツーショットのプリクラがこぼれた。


「葵・・・。」


葵と別れて1年。


葵、栞は大学生になったよ。


応えてくれるはずのないそのプリクラを、指でそっとなぞった。
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