満月の銀色ススキ
銀に近い、薄茶色の獣が夜の道を歩いていた。


「―あぁ、ヌシ殿」


ひょろりと細い女が草陰から顔を出した。

女はたった今、水浴びをしたかのように濡れていた。
整った顔に、黒い髪が張り付いている。

視線も、見た目のようにじっとりとしていた。


「人間との戯れはお止めになりなさいな。ヒトは儚く、幻のようなものですに」


獣は睨むように女を見た。
暫く獣は女と見つめ合う。

形が変わり、次第に人間の手足が作られた。


「それはおまえに指図されることじゃない」


「あらまぁ、怖い怖い」


女は笑いながらひらりと後ろへ飛んだ。
十数メートル先の地面に足を着ける。


「精々、裏切られないことを祈りもうしますわ」


クスクスという声と共に、女は朧気になって消えた。

女が消えた後、サラサラと雨が降り始める。
まるで、世界が静かに泣いているようだった。
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