満月の銀色ススキ
六章
胸を打つような圧迫感。

ひゅっと咽喉が鳴る。
その瞬間に望月は畳の床に崩れ落ちた。


「邪魔をする」


静かな声。
低くも高くもない。

動かない躰、視線だけ声に向ける。


「逃げられては困るからな。少々動きを奪わせてもらった」


影から抜け出したような。
全身が黒尽くめの人が、そこにあった。

声が響く度に、全身の力が抜けて行く感覚。
生まれたのは恐怖以外の何でもなかった。

望月は思わず肩を震わせる。


「な…んの、用…ですか…?」


漸く紡いだ言葉。
それは酷く歪だった。

黒い瞳は、望月を無言で見下ろしたまま。


「…おまえに訊きたい」


抑揚のない声は、温度を感じない。

昼に聞こえる生活音も。
外の音も、何も聞こえない。


「おまえは、自分の立場を解かっているのか?」


びくりと。
望月は躰を強張らせた。

その反応に、漆黒の瞳は続きを紡ぐのを止めた。


「なら、これ以上は現世(うつせ)に関わるようなことは止めろ」


望月は顔を下げる。


「貴方、は…死神…なんですか?」


俯いたときに流れた髪。
それに覆われ、窺い知れない表情。


「私は死神とは違う。おまえ達を案内する道標。ただそれだけの存在だ」


弱々しく訊ねられた問いに、漆黒の人は端的に答えた。
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