緑ノ刹那
『くそっ…来るな!!』


『シオン様、お逃げ下さい!!』


『馬鹿者!!
お前達を置いていけるか!!』



トウサ国の一団は、リョクラの王城へと向かう途中に魔物に襲われ、苦戦を強いられていた。

間の悪い事に護衛も少なく、また、魔物が上級のものだった為、負傷者が続出した。

トウサ国王子、シオンも、腕に多少の覚えはあったが、周りは怪我人ばかり、自らも傷を負っている。


魔物に倒されるのも、時間の問題だった。



(くそっ…せめて、妹だけでも)

出血で朦朧とする頭でそれだけを思う。



そんな考えが彼の集中力を削いだのか。

ちょうどあった石に足が引っかかってしまう。


魔物がシオンを引き裂こうと、その長い爪を振りかざした―――









まるで、永遠にも思える、刹那。




視界に、何かが映った。



そして気がつくと、魔物が赤黒い血を体から噴き出し、地に倒れていた。


そして、シオンと魔物の間に立つ人物に、シオンの意識は全て持って行かれた。



まるで人形の様な、人外とも言える整った顔立ち。
闇よりも深い、漆黒の髪。
緑の瞳は感情を映さず、ただ肉塊となった魔物を、静かに見下ろしている。



シオンは知らず、喉を鳴らした。


ふと、その双眸がシオンを捉えた。
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