緑ノ刹那
それを拍子に、瞳が柔らかくなって、シオンはそこで初めて、安堵を覚えた。


人物――よく見ると少女の様だ――はシオンに近づき、安心させる様に微笑んだ。


シオンの鼓動がひとつ、音を立てた。


『貴方が、トウサ王国王太子シオン様ですね?
私は、世界の一柱"緑王"と申します。
我が王の命により、お迎えにあがりました』


ゆったりと告げると、フィリアは手を差し出してシオンを立ち上がらせた。

その視線が、シオンの負傷した腕へと向かう。


『それは……』


『あぁ、気にしないで。
こちらの不備が招いた事です』


『いいえ。
遅くなり、申し訳ありません』


瞳を伏せて言ったフィリアは、シオンの怪我に手を伸ばした。

途端に、傷が跡形もなく消滅する。



フィリアは何でもない事の様に笑うと、真剣な目をした。


『この度は、ようこそお越し下さいました。
では、王城へ向かおうと思いますが……』


シオンも頷いて、微かに眉間に皺をよせた。


『しかし、これでは…』


その言葉にフィリアは大丈夫だと笑った。

シオンに言って、皆を馬車の周りに集める。


皆一様に首を傾げるのを後目に、フィリアは瞳を閉じた。


その体が、淡く光を帯びる。
艶やかな唇から、玲瓏たる旋律が流れた。


『遙なる時の流れに沿い、我は河を流れる。
一度其れに逆らい、我は刻を繋ぐ』



それが終わるか終わらないかに、一団の周囲に緑に発光する陣が発生した。


そして、次の瞬間には、視界が白く塗り潰される。



再度目を開くと、そこは王城の門の前だった。
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