緑ノ刹那
驚いて顔を上げるが、木は変わらずその葉を風に揺らせている。

『どういう事?』


その問いには答えず、大樹は母が娘にするように、あるいは神が人に予言するかのように、フィリアに語りかけた。

"いつか、君は今日このときの選択を悔やむかもしれない。
この森に戻りたいと思うかもしれない。

でも、忘れないで。
君を想ってくれている者、君が生きて学んだ全て、そして何よりも君が、選んだ。
それは、この選択が唯一無二の物だという事。

だから、君は、君自身を、君がした選択を、君の過去を、信じてあげて。"


―――それは、フィリアが心のどこかで考えていた事。


木は、全てを知っていて尚、フィリアの背中を押してくれた。

胸の奥がじんわりと温かくなり、自然と笑みが浮かんだ。


『…ありがとう。

でもね、私、貴方に言われてわかったの。
最良の選択なんて、此の世には無いの。


―――私が選んだ選択肢を、私がこれから最良にする。


だから、ここで見てて。
私は、絶対後悔しない』
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