緑ノ刹那
『……リーフ』


窓から顔を出して、こちらを覗き込んでいる。


『どうしたの?』

『ううん。
ただちょっと、眠れなかっただけなの』


『……フィリ、そっちに行ってもいい?』


首を傾げる。
(まぁ別に…)
『いいよ』







部屋から降りてきたリーフは、フィリアの隣に立って月を見上げた。

横を向くと、月明かりに照らされたフィリアの横顔がある。


なんだか、今はフィリアに何でも聞ける気がした。
夜の静かな空気がそうさせるのだろうか、いつもなら結局言い出せない言葉が、口からするりとすべり落ちた。


『――フィリは、ずっとあの森にいたの?』


突然の質問に、フィリアは驚いた様だったが、すぐに淡い笑みを浮かべて答えた。


『そうだよ』


視線は、月にむけたまま。


『両親は?』


『わからない。
覚えて無いの。
気がついたらあの木の下にいて、木や動物達とずっと暮らしてた』


『――何で、フィリアって呼んじゃいけないの?』




初めて、フィリアがリーフの方を向いた。


『それは…』


瞳が揺れている。


『何故?
記憶が無いなら、何て呼ばれてもいいはずなのに』


フィリアの目が、虚空をさまよう。

昔――そう、ずっと昔。
今は思い出せない、彼方の記憶。

『やくそく……
そう、約束したの……。
貴方以外には…呼ばせないって……
でも…あの人が誰なのか、思い出せない……』


大切な人だったはずなのに。
今は遠い、貴方。



『……僕達と来たのは…』


リーフは何となく気づいていた。
フィリアがついて来た理由。

それは、思い出すため。
失ってしまった、大切な人の記憶を。



『リーフを初めて見た時から、なんだかおかしかった。
今まで見たことも無いような場所にいる自分や、あの人が、たまに頭の中に浮かんでは消えていくの。
だから、リーフと一緒に行けば、思い出せる気がしたの。
……ごめんね』
< 26 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop