緑ノ刹那
そして、今回その役目をフィリアがつとめる。
リーフは儀式の一環で、女神を塔まで連れて行くため、今、フィリアのいる部屋に向かっていた。


純銀で造られた、この儀式の為だけにある部屋の重々しい扉を、力を込めて押し開く。




――中にいたのは、まさに女神だった。


白を基調とした、美しいドレス。
薄い緑のレースが、大きく開いた胸元、袖口、ドレスの裾からこぼれている。
所々に銀の刺繍がされ、陽の光に輝いていた。

そして、フィリアがつけている花冠。
薔薇、芙蓉、雛罌粟、雪割草…
咲く季節が全く違うというのに、それらは綺麗に調和して、フィリアの所々に真珠などの髪飾りがついた漆黒の髪を彩っていた。


思わず、感嘆の溜め息が零れる。


そんなリーフに、フィリアはゆったりと笑いかけた。


『リーフ』


リーフは床に片膝をつき、まるでダンスを申し込むかの様に手を差し出した。


『美しき女神。
どうか、この私と共に来ていただけませんか?』


『よろこんで』


差し出された手に、そっと自らの手を乗せるフィリア。

決まった通りの成り行きだったが、ここでリーフが予想外の行動に出た。


乗せられたフィリアの手の指に、そっと口づける。

『ありがとうございます、女神よ』


フィリアは真っ赤になった。
立ち上がったリーフは、フフン、と得意気に笑う。


お返しに、ヒールで思い切りリーフの足を踏んでやった。
< 50 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop