緑ノ刹那
フィリアはリーフの手を離れて塔の前に立ち、リーフの方を振り返る。

ディーンはリーフとフィリアの間に立ち、二人に祝福の詞を述べ、リーフの斜め後ろに下がった。


リーフがフィリアの前に片膝をついてひざまずき、フィリアはそれに微笑んだ。


『――其はこれより王となり、この地を治める。
しからば我は其を祝福し、花冠を授けよう。
そなたに、世界からの祝福を…』


フィリアはそっと、リーフの頭に花冠をのせた。


周りから歓声があがる。


ディーンは立ち上がって、賢者役であるディーンを振り返った。


腰の宝剣を鞘から抜き、ディーンに捧げる。

『我はこれより王と為った。
賢者よ、どうか我と我が国に祝福を――』


リーフの台詞に、ディーンは笑った。

リーフの手から、宝剣を取る。


(――?)

リーフは内心首を傾げた。

ここではディーンは杖を振って、祝詞を自分に授けるはずなのに―――



『戴冠は為った。
貴方は王だ。』


ディーンが喋りだしたので、リーフはホッとして耳を傾ける。

ディーンは尚も言葉を紡いだ。



『――しかし、契約は為されていない』


ザワリ、と場が騒ぎ出す。

予定に無い台詞にリーフもフィリアもバルドも、驚いてディーンを見た。


ディーンはそれでも言葉を途切れさせない。


『何故ならば―――貴女が目覚めていないから』


そう言って、ディーンはフィリアを見た。


宝剣を持って、妖しく笑う。


『――さぁ、目覚の刻だ』
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