緑ノ刹那
銀の塔の鐘が高らかに鳴り響く。
まるで、今から始まる事の、予兆の様に。


その塔にフィリアは胸に深々と刺さった剣でぬい止められていた。

剣からをおびただしい血がつたい、地を濡らしている。


そんなフィリアに唇を寄せ、ディーンは愛おしそうに彼女の頬に飛び散った血を舌で舐めとった。

『――やっと、キミが手に入る。
ずっとこの時を、僕は待っていたんだよ。
―――フィリア』

ディーンは知らないはずの本当の名前。


ディーンは、それをごく当然の様に呼び、フィリアのつくった血溜まりに右手をついて、叫んだ。

『我、古の契約に基づき、銀の音を鳴らし、其を求む者也。
我が声に応え、真の姿を現せ、"緑王"フィリア・クルール・フイユ!!』



フィリアの瞳が見開かれる。
有り得ない。
そう言った様に見えた。

刹那、塔の壁から茨が現れ、フィリアを包み込み、そのまま塔の中へと引きずり込んでゆく。

その様子を、リーフとバルドは為す術も無く見ていた。

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