緑ノ刹那
『どうしてクレイは、そんな約束をフィリにさせたんだ?
だったら、代々の王全員と契約しろって命令すればよかったのに』

言外に、そうすればディーンの事で、こんなに大変にはならなかったはずだ、という意味を含んだそれは、闇に溶けて消える。

フィリアは首を横に振った。


『それは駄目。
それは、世界の理に反すること。
クレイも私も、彼の方には逆らえない。


それに、この国の王全てに私がつけば、この国は駄目になる。

神の力に頼りすぎて、どんどん、どんどん腐敗していき、やがて滅びるでしょう。

それを、クレイは心配していた。

――でも、一番の理由は、友達だから』


リーフはその言葉に首をひねった。


『誰と誰が?』


フィリアはゆったりと笑う。
眼差しが何かを愛おしむそれに変わり、リーフは胸の奥底を引っかかれた様な感覚を持った。


『――みんな。
クレイとファイと私と、他にもたくさん。

だから、私をあの"約束"で、この場所に縛った。
全ては、その為だけに。

クレイは言っていたの。
自分の手は、あまりにも小さいから、だから、自分の手の中にあるもの、それだけは俺が絶対幸せにするんだ、って』



しあわせ。


それは、手に入れるのが簡単な様で、難しい。

だから、せめて

そばにいる、その人だけでも。


しあわせを、あげたい―――



『フィリは…
あの頃に戻りたい?』


リーフは言った瞬間に、後悔した。



フィリアは笑ってくれた。

『ううん。
私には、約束があるから。
だから、先に進むの。


――だから、先に進めるの』
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