緑ノ刹那
リーフが立ち去った後、フィリアはゆったりと銀の塔へと向かった。

未だ、自らの血がへばり付いている壁に手を触れて、そっと目を閉じた。


本当は、この場所はあまり好きではない。

ここには、過去の幸せな思い出と辛い思い出がない交ぜになって、酷く泣きたくなることがあった。


塔の頂上を見上げる。
純白の屋根が、月の光に淡く光って見えた。


少し屈んで、いっきにジャンプ。

フィリアの体は重力に逆らって、フワリと夜空に浮かんだ。


塔の屋根のてっぺんに立って、街や城を見渡す。


『……ここは、平和よ、クレイ』


小さく呟いて。

ふと、気配を感じてそちらを見た。

目を細める。



―――ストンッ


あまりにも軽い音と共に地に降り、気配のする方に声をかけた。


『で、バルドは何の用があるの?』
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