緑ノ刹那
『……どうして、そう思うの?』

蚊の鳴く様な、声だった。

バルドは極力フィリアを見ない様にして、続ける。


『この国には、そういう伝承が残っている。
御伽噺にもなる程だ。
おそらく、国民は全てその話を知っているだろう』


フィリアが笑った気配がして、バルドはつい、そちらを見てしまった。


フィリアは笑っていた。


『違うわ。


クレイは当時建国の為に、7つの部族を巡った。
国が出来る前は、その部族の長達がそれぞれの民を支配していたから、彼らを説得に行ったの。

――その頃は魔物が沢山いて、大変だったわ。

ある時、クレイが魔物に襲われている一人の少女を助けた。
その子は、一つの部族の長の娘で、二人は一目で恋に落ちた。

それが、リョクラ王国初代王妃、ベル・エルよ』


『……そうか

『夜分にすまなかったな、フィリ。
では、明日に』

小さく呟くと、バルドはフィリアに礼を言って部屋に戻った。
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