緑ノ刹那
―――キィッ


剣と杖が合わさり、硬質な音が響く。

その間にも、ディーンが何事か呟くだけで、フィリアの周りに氷の槍や、火柱が出現した。

しかし、そのどれもがフィリアに近づくだけで霧散する。


『普通の魔術はやっぱり効かないか。

……じゃあ、これはどうだい?』


フィリアの周囲に先程と同じく、氷の刃が形成された。

それがフィリアに向かい、同じく霧散すると思いきや――フィリアの腹部に、グサリと刺さった。


『…っあ』


フィリアの口端から、真紅の血が一筋、零れた。

一度ディーンから離れ、刃を抜く。


パタパタと血が地面を濡らした。


『これは、効くんだね。
よかった』


ゆったり微笑うディーンを睨む。


『この力……どうしたの?』


ディーンは、答えない。



『どうしたの、と聞いているのよ!!』


フィリアは激昂した。

既に腹部の傷は塞がっている。

周囲の木々に目をやると、枝や蔓が伸びてディーンを拘束した。


近づいて、フィリアはディーンをじっくり眺めた。


『この力は人間が使える物じゃないわ。
早く手放さないと、命まで持ってかれるわよ。

一体何だってこんな事を……』


『駄目だよ。
これは、"あの人"が僕にくれたんだ。

これがあれば、君を助けられる。
僕と来れば、君はもう、戦わなくていいんだ』


ディーンは、そのままの状態で、フィリアを見た。
それは、母を求める子にも似た、すがりつく様なものにも見えた。

ディーンは尚も続ける。
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