Rhein
「なにあれ」
朝早く、人目を忍んで彼女の下駄箱に放り込んだ白い封筒。
「ラブレター。
死ぬまでに一度は書いておこうと思って」
屋上に足を踏み入れてすぐ、飛んできた問いに答えた。
メール以外で会話をするのは久しぶりだ。
彼女は、フェンス越しの青空を背に「ふぅん」と可笑しそうに笑う。
空にはわずかに雲が浮かんでいた。
「追伸の方が長いし、どう考えてもそっちが本題だし」
屋上を縁取るフェンスにもたれかかり、俺を見た。
肩より少し長い栗色の髪が風に揺れている。
ゆっくりと彼女に近付くと、風になびく髪に隠された唇を探し当て、触れた。
これは、俺を誘う眼だ。