謝罪人 Kyouko
「余計なこと? 」

「俺のやっていることは、本当に正しいことなのかって・・・時々、思うことがあるんだ」
そう言って、松山は、タバコを胸いっぱいに吸い込んだ。

「記者として不正を暴くことは正しいことだと思っている。でも、兄として考えれば、妹が不正で悔しい思いをしたことや、レイプされた辛いことを、あえて自分が久美に思い出させることをしている気がして仕方ないんだ・・・」

「・・・・・・」

「昨日、あんたが会見の席で追い込まれている姿を見た時、そんなことを考えていた・・・まったく記者失格だよな」

松山はもの静かに言った。
その言葉には、悲痛な思いと優しさを感じた。

「でも、あんたは立派だったよ。ちゃんと仕事をした。でも、どうしてなんだろうな・・・」
 
松山が恭子の顔をじっと見た。

「あんたが、俺たち記者の前で謝罪した瞬間、急に心が穏やかになって、もうこれ以上は、相手を責めるのは止めようという気持ちになった。そう思ったのは、自分だけじゃなく、他の記者達もそうだった」

松山は、恭子の謝罪で体験したことを不思議そうに話した。




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