【完】ひとつ屋根の下で。
「祖父母も優しかったし父も俺に頻繁に会ってくれてて、十分幸せな暮らしをしていた。だけど」


だけど…………。



「藤河の祖父母の両方が亡くなり、12歳当時の俺は、父しか身寄りがなく、父の家に転がり込んだんだ」



一瞬、心臓がチクリ、と痛んだが、俺は止まることなく話す。ゆっくり、ゆっくり。



「そこにいたのが、父の正妻の、菜々子だったんだ。その菜々子の実家が、あの島本。あの、電話したり、ここに来た人は菜々子の妹だ」



ここまでで俺は言葉を詰まらせてしまう。



思い出して、鳥肌が立って、右肩が痛む。



抑えた右肩の手が、震えているのが自分でも分かった。



そんな俺を見た苺は、優しく俺の右肩と手を握った。
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