【完】ひとつ屋根の下で。
「苺、お願い。俺の手、握っといて」



それは多分、ヒカル自身がこの場から逃げないようにするため。心を壊さない暗示。



アタシは、そう解釈し、そっと、ヒカルの骨張った大きな手を握った。



その手は少し汗ばんでて、ヒカルの緊張が分かる。



ヒカルは、アタシの指に自身の指を絡めて、再び進み始めた。



一歩一歩。砂利を踏む音がヒカルの緊張するテンポみたい。



ヒカルは、少し進んだ先にあった墓の前で、再び足を止めた。



『藤河輝久、菜々子』



この灰色で小さな墓が、ヒカルの親父さんと、ヒカルを苦しめた義母さんが眠る墓。



二度と還ることはない命。そして、二度と治ることのない、ヒカルの傷痕の末路。
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