【完】ひとつ屋根の下で。
「ごめんなさい。私が謝ってもしょうがないけど、長い間、ごめんなさい……」



小さな老いた体で泣く姿を黙って見ていたヒカルは、彼女の手に触れる。



「顔を、上げて。アンタが謝る必要は、ない」



そう言ったヒカルの顔は、何かすっきりしている。



「確かに、真実を聞いたところで菜々子を許すつもりは毛頭ない。だけど、アンタ一人にそちらサイドの気持ちを背負わせてたのは、俺がうじうじしていたからだ」



はっきりそう言うと、ヒカルはアタシの方を見る。



「……それに、今の俺なら分かる。愛を伝えることの難しさ。愛する感情を認める大事さ。それを少しずつ教えてくれる奴に出会えたから」



それは、ヒカルの嘘ひとつない、真実の想い。



その綺麗な翡翠色に映ったアタシの顔。



こんな時だけど、この瞳の中に住めたら、どんなに美しい光景が見れるのだろう。なんて変なことを思った。
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