【完】ひとつ屋根の下で。
ヒカルの運転する車内には、ボサノバの音楽がゆったりと流れる。



ヒカルにしては小洒落たもん聴いてんな。



「苺、チャンネル回して。落語とかやってないの?」



前言撤回。この男に、洒落っ気なんてあってたまるもんか。



「何?ぶっさいくな顔で見ないで。事故るかもしんないじゃん」



「とりあえず一回痛い目見やがれ」



何ひとつ変わらないアタシ達。それが心地よく、アタシを解きほぐす。



2年間、ヒカルが変わっちゃいないだろうかと、心配したりもした。



もしかしたら、変わらないのは、アタシだけで、ヒカルは変わってしまったのではないか、と。



2年前の、愛も、さよならしたときに体を切り裂かれる、あの感情も、もしかしたら、忘れてしまったのではないか、と。



でも、変わらない。アタシ達は二人で一人のまま。憎まれ口しか叩けなくても、世界は涙が出そうなほどに、温かい。
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