泣き虫Rocker
チケットを誰かに譲ろうかと前日まで悩んだ。
結局は、いつものライヴハウス前に立っている。

すでに開演時間は過ぎていて、かすかに音が聞こえてくるような気がする。……本当に気がする程度。防音設備が完璧なライヴハウスで、音が漏れてくるということはありえないだろうから、きっとこれはあたしの頭のなかで流れてるKishのナンバー。
それも、Rockerだから尚更笑える。

チケットと500円を渡し、猫みたいにするりと小さな隙間から中に入った。
ちょうどMCの時間でステージ全体が照らされている。

あたしは、ドリンカーの横にある丸椅子に腰掛けて、そのままオレンジジュースを頼んだ。
ステージ上のメンバーと誰とも目が合わずに、進む。……目が合うこと自体が珍しいことだったのに、いまでは、それが当たり前だと思って、寂しいとまで思ってる。

アンコールも一回終わり、開場が明るくなった。ドリンカーに人が殺到する前に、あたしはさっさとライヴハウスから抜け出した。

暗くなった外は、星が見えない。
まだ開場内の熱気と夏独特の汗ばむ暑さを感じて、手で2~3度顔を扇いだ。

そういえば、今日はRockerを聞いていない。
最初の方に弾いたのかな、と思った。
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