窓越しのエマ
公園を出てから、どれくらい経っただろう。僕たちはうねる坂道を上りつづけていた。

周りの景色はすっかり寂れてきて、ひび割れたアスファルトがところどころめくれ上がっている。

立ち木のまばらな杉林のあいだから時折り人家が見え、中には人が住んでいるのかどうかも疑わしい朽ちかけた家もあった。

夏の終わりを嘆いて、立ち遅れた蝉が必死に鳴きつづけている。

鳴いたところで夏は戻ってこないし、お前を待っているのは死だけだ、と言ってやりたかった。


僕は全身汗だくになっていた。暑さからくるものではなく、脂汗だ。

ほとんど恐怖といっていいほどの不安が胸をしめつけて、息をするのも苦痛だった。

一歩進むごとに絶望の源に近づいているような気がする。


「エマ、やっぱりよそう」


「何を?」


「これ以上進んじゃ駄目だ。戻ろう……」


エマは気にかける様子もなく、「大丈夫だから」と言ってどんどん先を行く。


大丈夫なもんかと言い返そうとしたが、前から自転車に乗ったおばさんが坂を下ってきたので、僕は口をつぐんだ。

見ず知らずの他人とはいえ、蒼白な顔で独り言を喋っている精神異常者と思われるのはご免だ。
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