窓越しのエマ
陽は傾き、辺りは暗くなりはじめていた。

上り坂は徐々に勾配がなくなり、この辺りまで来るとほとんど平地になっている。

杉林が途切れたところで、砂利の敷かれた脇道に入る。

奥まった敷地のさらに奥のほうに、その家はあった。


平屋造りの小ぢんまりとした家屋は比較的新しく、人家というより山荘といった趣がある。

敷地の端は切り岸になっているが柵は設けられておらず、公園と同じようにそこから海岸が一望できた。

夕風が吹いているが、潮の香りはここまで届いてこなかった。


この家を目にすると、僕はますます沈鬱な気分になった。

内臓がしぼんで溶けていくような、とても嫌な感触を覚えた。

この家の中には、僕の見たくないものがあるに違いなかった。


エマが僕の手を引いて家の入り口に向かう。

僕は今すぐ逃げ出したい衝動に駆られたが、どうしてもエマに抗うことができなかった。
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