ピアスに秘めた想い
俺は椅子から立ち上がると、廊下に出る

俺の寝室の隅で丸くなって、桃香が泣いていた

「どうした?」

「え?」

桃香が目を真っ赤にして、俺の見上げた

手には白い封筒を掴んでいた

「手紙?」

「うん、ママから」

「容態が良くなったのか?」

桃香の母親は西岡の親子のせいで薬漬けになり、病院を退院してからも施設に入所している

退院の見込みは…ないと聞いていた

桃香は首を横に振ると、俺に手紙を差し出した

俺は手紙を広げると、眉をひそめた

「これ…ママの字なの
たまに素に戻るときがあるんだって、そのときに書いてくるんだけど
まるで幼稚園児みたい字でしょ?
手が震えて、書けないのに…書いてくれるの
一生懸命、『ごめんね』って…」

桃香は目に涙をためて呟いた

「ママのせいじゃないのに
誰のせいでもないのに…必死に『ごめんね』ってそれだけ書いて送ってくるの
だから…つらくて」

「今まで、一人で泣いてたのか?」

桃香は嗚咽を漏らした

俺は桃香の隣に腰をおろすと、頭を撫でた

「落ち着くまで、手繋いでてやるから…」

「え?」

桃香が鼻をすすりながら、驚いた声をあげた

「やっぱり、テツさんと兄弟だね
お父さんが手を繋いだりしてくれたの?」

桃香がぎこちない笑顔で、口を開いた

「あ?」

「前にね
テツさんが、寝るまで手を握っててくれたことがあって
だから…」

「くだらねえ
俺の父親はそんな優しい男じゃない
守ってもらったことも、抱きしめてもらったことも一度もない」

人との触れ合いが、あんなに落ち着くものだと知ったのはクレアが初めてだ
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