沖縄バンド少年物語
猛が言うには、算数クラスに美女がいるとのことだ。その美女はいきなり現れるから気をつけろとも言われた。算数のクラスはクラスが解体され、理数系、文系ともにごちゃまぜになる。先生達も一部の非常にできる奴と一部のまったくできない奴以外の顔と名前が一致していないようだ。猛の算数教室で授業を受けた。無論、美女を観るためだ。猛の隣にはごく普通の笑顔がかわいらしい天使がいるだけだった。俺たちは、よっぽどのことがない女子を天使と呼んでいた。よっぽどのことというのは、かなりデブっていたりあまりにも外見に気を配らない方だ。しかし悲しいことに天使以外からでも話しかけられると舞い上がる。猛は美女のことについて触れない。猛が学校をさぼった日も俺は猛の算数クラスで授業を受けた。授業がはじまると猛の言う美女が「猛君は?」と聞いてきた。母親以外の女性に関心を持たれている猛を羨ましく思いながらも緊張して「サボり」とそっけなく答えた。美女は笑顔で「ふーん」と答えそれっきり話しかけてくれなかった。何十回といまあった場面を思い出し、天使と会話できたことに興奮していた。授業が終わると天使がまたよってきてシャーペンを渡し、「ぶすっと刺して!」とのたまった。俺はわけがわからず、困惑していると、天使は真っ白い二の腕を指さしながら「ここ!」と強く言った。俺はその白さに目眩を感じながら、言いなりになる気持ちよさを理解しつつ遠慮気味に刺した。「ビジョビジョビジョ」血が流れる素振りと擬態語を残し、天使は去った。彼女は天使であり、美女だったのだ。その美女事件以来、少しずつ話をするようになった。消しゴム忘れた、あったら貸してくれない?昼から台風だよ。学校が休みになればいいのにな。体育何やってる?女子は今日から長距離だよ。ダイエットにもなるから張り切ってますとか何気ないことだが、俺にとってはその一言で一日が安定し、放課後のばか話がさらに笑えた。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop