PLAY-ROOMS
「死にかけじゃねえか。そんなやつに大事な鞄を任せられるか」
 もちろん嘘だ。たとえぴんぴんしてたって、男が女に鞄を持たせられるわけがない。
「す、すみません」
 ただ、こいつには今の説明は効いたようだ。本当にすまなさそうに頭を下げる。
「ああもう、そういうのはいいと言っただろう。自然にしろ、自然に」
 その、汗を吸いこんで少々平たくなっている頭頂部に凸ピンをしてやる。おお、なかなかいい音がするではないか。
「ご、ご主人様!? 私の頭はスイカではありません! もちろん、食べごろなんてものもありませんから!」
「ええい、ならスイカのほうがよっぽど役に立つわい。いいかげん、それを止めろと言ってるんだ」
 今度は手のひらで軽く叩いてやる。ぽんっと、かなり軽い音がした。こいつ、中にちゃんと詰まってるのだろうか。
「うう、ご主人様。それって何ですか?」
 俺の手をそれでも甘んじて受けながら、目の前のスイカ(小玉)はまったくもって何もわかっちゃいないことを言い出した。
「その『ご主人様』を止めろと言っているんだ!!」
「な、なんでですか!?」
 間髪いれずにスイカ(すかすか)が聞き返してきやがった。
「お前はほんとに頭が緑黄色野菜だな! こんな往来でそんな呼び方されたら迷惑だと言ってるんだ!!」
「で、でもご主人様はご主人様ですし」
「この、イエローパプリカが! 電話口ではたとえ上司でも呼び捨てで呼ぶもんだろうが、それと同じだ! 解雇するぞ貴様!!」
「そ、それは大いに困ります!」
「なら、せめて公共の場では俺のことを『ご主人様』なんて言うな! いいな!」
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop