PLAY-ROOMS
 最後に額におもいきり凸ピンをしてやると、スコーンとなんとも心地いい音がした。
「いたたた。わ、わかりました。ご主人様がそこまで仰るならなんとかします」
「わかればいいんだ。・・・・・・って、ん? 全然分かってないじゃないか!!」

 ああもう! と、頭を掻き毟る。そんな俺を横目に、「あれ。でも、ご主人様はご主人様で。ご主人様でないとすれば何と言えば・・・・・・」などと意味不明な自問に浸っている緑黄色野菜。もとい、雛菱明日香。

 こいつとの出会いは、一口で言うならば『衝撃的』だった。
「私を、あなたの奴隷にしてくれませんか?」
 なんせ、初めに交わした会話がこれである。俺も、なんで「ああいいよ」なんて軽く返事をしたのか謎でしかたない。
 たぶん、退屈していたからだ。世界というものに、いいかげん飽き飽きしていたのだ。こう言っておけば、思春期特有の若気の至りとして処理される気がする。断じて、こいつをパッと見たときに「けっこうスタイルいいな」とか「ど、奴隷って・・・・・・ごくり」などと馬鹿丸出しの性欲猿になっていたわけではない。そう、なっていたわけではない。
 本当に真面目に回答するならば、こいつがなんだか放っておけなくなっただけだ。それ以上でも以下でもない。ただ、なんだか自分と似ているなと、そう感じただけだ。
(しかし、こいつが俺と似ている? ああ、あの瞬間の俺を殴り殺したい。一瞬でもそんなことを思った俺をっ!)

「ふう、やっと着きましたね。暑すぎて腐りそうです。早く入りましょう」
 そんな感じで過去の自分に頭の中で鉄拳を御見舞しているうちに、どうやら家まで着いてしまったようだ。
「確かに暑いな、帰って麦茶でも飲もう」
 軽く鉄筋コンクリート建ての我が家を見上げる。部屋数8、三階建て。エレベーター不完備のマンションだ。ん? マンション、だよな。アパート? まあこの際どうでもいい。つまりはここの、一階にある管理人室が俺の自宅というわけだ。
「それにしても、すごいですよね。ご主人様、高校生なのにこんな立派な箱もの持ってて」
 影になっているおかげで多少は涼しい通路を進んでいると、明日香がそんなことを言い出した。
「別にすごくない。親が勝手に寄こしただけだ」
「それがすごいんですよ。いいなあ、お金持ちって」
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