嘘で隠された現実(リアル)
「それにしても、天音も歌上手いんだな」


「え‥急にどうしたの?」


私は、突然の感想に戸惑った。

嬉しいはずなのに、戸惑いの方が大きくて、私は素直に「ありがとう」が言えなかった。


「考えてみれば初めてだよな、天音の歌聴くの」


「そう‥だっけ?」


「そうだよ」

そう言って、やっと朱月は笑った。

「でもやっぱ、神楽より下手だな」


「星と比べないでよ」


「だよな」


「そうだよ」


朱月につられるように、私も笑った。


しかし何故か、胸が苦しかった。

朱月が笑ってくれて嬉しいはずなのに、素直にそれを喜べない。


朱月の笑った顔が、あのときの‥道路越しに見た笑顔と重なった…。
< 103 / 331 >

この作品をシェア

pagetop