嘘で隠された現実(リアル)
「何だよ?」


「遺書」


俺は思わず目を見開き、立花さんを見つめた。

立花さんは、そんな俺の反応は予想済みだというような無表情で、俺を見つめ返してきた。


「手術を説得していた私にね、渡してきたのよ。「俺が死んだら両親に渡してほしい」ですって。信じられる?仮にも医者を目指している私にそんなこと‥自殺を黙認しろって言ってるようなものだわ」


呆れたような口調の立花さんの目が、俺には少し潤んでいるように見えた。

俺は、このとき何となく判った。

立花さんはアイツが‥水月が好きなのだと。

だとすれば、この現実は立花さんにとって、どれほど辛いものだろうか。

アイツは病気で、手術が必要で‥なのに自分の説得に応えてはくれなくて‥アイツは死ぬ気で‥それどころか遺書を託されて…。


俺はいたたまれず、目を伏せた。
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