嘘で隠された現実(リアル)
朱月を困らせたいわけではない。

困らせたくはないけれど、このまま朱月と逢えなくなることの方が、もっとずっと嫌だった。


「ねぇ、海外になんて行かないでよ。朱月が居なくなったら、誰が作曲するの?皆困るよ!あたしは誰の曲の歌詞を書けばいいの?あたし、嫌だ。朱月以外の曲の歌詞書くなんて!だって、あたしは‥「天音。懐かしい話でもするか?」」


「え?」


朱月は落ち着いた口調で、私の言葉を遮った。

相変わらずの笑顔だが、空気が変わったのを、肌で感じた。


「昔した、天使の話。覚えてるだろ?」


忘れるわけがない。

あの話は、私の中で未だに風化されることもなく残っている。

それは、私が朱月に恋をしたきっかけ…。


「覚えてるよ…?」


「だよな」

朱月は、満足そうに笑った。

「あの話さ、俺が考えたものじゃないって言っただろ?水月なんだよ」


「え?」


「あの話は、昔、水月が俺にしたものだ」


「え‥でも…」

私は言い掛けて、言葉を濁した。


朱月は、何を言いたいのだろう?

私には判らなかった。
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