嘘で隠された現実(リアル)
「天音と居ると、ほだされるんです。そのときの俺には、絶対に譲れないものがあったから、気を張っていないといけなかった。だから、天音の存在は、邪魔でもあった」


俺は、珈琲の香りに誘われて視線を上げた。

黒雨さんは、俺の目の前に、音も立てずカップを置いた。

以前と同じ、黒いカップだ。


「飲めよ」


「頂きます」


火傷をしないように、ゆっくりとカップに口を付けた。

口の中に、あの味が広がっていく。


「で、そんなお前が今、天音ちゃんと居るのは何でだ?」


「高校で、偶然再会したんですよ。学校もクラスも一緒でビックリしました。けど、嬉しかった。天音が近くに居ることが嬉しいと感じて、自覚せざるを得ませんでした」


「天音ちゃんが好きだと…」


「はい」

俺は笑って、また一口珈琲を飲み込んだ。
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