嘘で隠された現実(リアル)
「俺も、判ってるんです。天音が、俺に話してほしがってるってこと」


「それでも、できない。好きだから?」


「どうなんでしょうかね。よく判らなくなってきました」


「そうか」

黒雨さんは、フーッと白い息を吐き出した。

「天音ちゃん、お前がアメリカ行くこと知ってんのか?」


「知ってます。初めは引き止められましたけど、俺、最低なこと言っちゃったんで、愛想つかされちゃったかもしれないです。もう何も言ってきませんしね」


声に出して言ってみると、判っていたことでも、ショックを受けている自分が居た。

自分で仕向けたことなのに、変な話だ。


「‥やっぱ、お前もガキだわ」


「え?」


黒雨さんは、出来の悪い子どもを見るような目で笑った。

意味が判らない。


「天音ちゃんがちょっと可哀想だが、俺は完璧じゃないお前を見て安心したよ」


「や、意味判んないんですけど」


「判ったところで、どうせお前の意思は変わんねぇんだろ?だったら、更に自分を追い込むことはねぇよ」


「は?何かムカつくんですけど。何で黒雨さんが判ってるみたいな口ぶりなんですか?」


「そりゃ、だてに朱月より長く生きてねぇからな。それに何より、俺は優秀だ」


「‥なるほど」


「何で即答じゃないんだ?」


そう言いながらも、黒雨さんは機嫌の良さがにじみ出ているような笑いをこぼした。
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