嘘で隠された現実(リアル)
演奏を終え、割れんばかりの拍手を浴びる5人は、今までで一番満ち足りた表情をしているように見えた。

私もきっと、それに負けないくらいの表情で、拍手をしているはずだ。


突然、笑顔で客席を見ていた朱月の視線が止まる。

それが気になってその視線を追えば、壁に縋って腕を組んでいる男性の姿が見えた。

周りにも人は居るが、恐らく朱月の視線が捉えている人物はあの男性だろう。

身体を元に戻して朱月を見れば、彼はまだ視線を留めたまま、嬉しそうに笑顔をつくっていた。


あの人は誰なのかという疑問を抱きながら、私は小さく苦笑した。

最後の最後まで、突きつけられる現実。

それは、私には、知らないことが多すぎるということだ。


朱月は、私のことをよく判っていると思う。

私自身が自覚していない癖を、知っているくらいだ。

しかし私は、朱月のことをあまり知らない。

朱月が悩んでいることは判っても、彼は何も話してくれなかったから…。
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