嘘で隠された現実(リアル)
覗いた教室には、彗が居た。


彗は、何かを握り締め、立っていた。

その表情は、今にも泣きそうだ。

俺はそれを見て、少し驚いた。

いつも無駄に明るく、五月蝿い存在代表である彗の、そんな表情を目にするのは初めてのことだった。


「天音っちは、マジで優しいよなぁ。それでいて、凄ぇ残酷…」

彗は苦しそうに呟いて、手にしている紙を広げた。


俺の距離から、その中身は見えない。

だが、すぐに判った。

あれは、天音が書いた歌詞だ…。


「歌詞が引き立つアレンジになってる‥か」

彗はフッと笑った。

「当たり前だよな。何回この歌詞を読んだと思ってんだよ。天音っちの書いた歌詞なんだから、適当にできるわけねぇじゃんか…」


彗の独り言を遠くに感じながら、俺は目を閉じた。


俺は、遠い日の記憶を呼び起こしていた。

それは、神楽がボーカルに決まったあの日のこと…。
< 81 / 331 >

この作品をシェア

pagetop