嘘で隠された現実(リアル)
あの日、天音と神楽が一緒に練習室に来た。


顔合わせのために来た2人は、女装した彗を女と思い込んで接していた。

声が女性より多少ハスキーでも、外見がそれを上手くカバーしたらしく、2人は全く彗の性別を疑わなかった。

暫くして、彗が男であることを打ち明けたのだが、そのときの2人の反応といったら‥今思い出しても笑いが込み上げてくる。


今では信じられないことだが、始め、彗は天音を気に入っていなかった。

正確には、神楽のことも受け入れてはいなかったのだが、歌を聴いてその実力に気付くと、すぐに納得したのだ。

だが、天音に関しては、そうではなかった。

彗は、曲を作る俺、もしくは歌う神楽が歌詞を書くべきだと考えていた。

わざわざ別の人間に書かせる必要はないと思っていたことも理由の1つだが、それ以上に、悲恋の文章ばかりの歌詞が気に食わなかったらしい。

さすがに天音の前で堂々と文句を言うことはなかったが、俺にはしつこく抗議してきた。

俺は、どうすれば彗が納得してくれるのかと、頭を悩ませた。

天音以外に、歌詞を書かせるつもりはない。

だがそうすると、彗を納得させることは絶対無理だと、俺はそう思っていた。
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