嘘で隠された現実(リアル)
呼び止めてからの行動なんて、少しも考えていなかった。

少しずつ冷静になるにつれ、自分の行動に戸惑うことしかできない。


「あ‥朱月が見えたから…」


詰まり気味になった言葉は、乱れた呼吸のせいではなかったのだが、どうやら上手く誤魔化せたようだ。

朱月は「そうか…」と小さく呟いた。


「全然気付かなかったな…。何処で俺に気付いた?」


「向かい側に会話してる姿が見えて‥あれって先輩だよね?先輩とも遊んでるわけ?ビックリするじゃんかっ!ほどほどにしないと、後が怖いよ?」


動揺してしまったせいなのか、言うつもりのなかった言葉が、次から次へと溢れ出てきてしまった。


早速そのことを後悔しながら朱月を見上げれば、彼は困ったような笑みを見せた。

普段の朱月とは違う反応に、私は言葉を失った。


「で、天音は買い物でもしてたのか?」


「え?あ、友達と遊んでたんだけど、さっき別れた。朱月は今から帰るの?」


「いや…」

朱月は、首を振って否定した。

「昨日ギター持って帰るの忘れてさ、今から学校に取りに行くとこ。あれが無いと困るからな」


「学校開いてるの?」


「部活やってるから、開いてんだろ」


「そっか」


「ああ。お前は帰るとこなんだろ?じゃぁまた明日‥「ま、待って!」」


早々に立ち去ろうとする朱月を、慌てて引き止めた。

朱月が怪訝な顔をして、私を見ているのが判る。

私は、衝動的に口を開いていた。
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