運命の人はお義兄様
私はバイオリンから手を放した。
その時こうくんのやっていた仕草を思い出した。
指を顔の前で交差させた。
掌と掌の間に息を吐いた。
眼を瞑ると
こうくんが白と黒の鍵盤に手を置いている姿が浮かんだ。
一緒に演奏してくれるの?
こうくん…。
私の名前が呼ばれ、ステージに上がった。
眼を瞑ると、さっきのこうくんがまた出てきた。
私は一緒に演奏するように弾き始めた。
それからの事は良く覚えていない。
無我夢中で演奏したんだと思う。
演奏が終わった途端に緊張が戻ってきた。
私は震える足を動かし、客席に向かって一礼した。
おば様が座っているはずの場所を見ると、横には絋希さんと隼人さんが座っていた。
私の視線に気付いたのか、隼人さんが大きく手を振り始めた。
そんな隼人さんの隣では、絋希さんが呆れたように下を向いていた。
絋希さんとは反対におば様は微笑んでいた。
小林さんも私に小さく手を振ってくれていた。
私は恥ずかしくなって急いで袖に戻った。