ビターに愛して シュガーな恋心
あたしは手をタオルで拭いてから、玄関に走って行った

「勇人さん、今日は遅くなるって……え?」

玄関で靴を抜いている人を見て、あたしは首をかしげた

見たことがない男の人が、鍵を手にして家にあがろうとしているからだ

えっと……誰だろう?

黒の細身のスーツに、青のネクタイをしている

髪は黒髪のストレートで、オールバックしている

黒ぶちの眼鏡の端が、光を反射してガラスの奥の瞳を窺えなかった

あ…似てる

勇人さんに似てる

仕草も、容姿も

もしかして、この人が勇人さんのお父さん?

「君は……勇人が言っていたメイド?」

「あ、はい! 西岡桃香です」

あたしは慌てて頭を下げた

「紫桜学院の生徒なのに、メイド?」

勇人さんによく似た低い声が、あたしに突き刺さる

説明…するべき?

品定めをするように、勇人さんのお父さんがあたしの全身を眺めている

< 22 / 417 >

この作品をシェア

pagetop