ビターに愛して シュガーな恋心
「西岡? ……あ、そういうことか」

勇人さんのお父さんは、勝手に納得したようで、大きく頷くとスリッパも履かずに部屋の奥に入っていく

「あ…スリッパを」

「私はスリッパを履かない主義なんだ」

「え?」

「……面倒くさい」

え?

面倒くさい?

あたしは手に持ったスリッパを、元の位置に戻すと勇人さんのお父さんの後ろを追いかけた

「今夜はここで食べる」

「あ…夕食を…ですか?」

「ああ」

「はあ…」

何で?…とは聞けないよねぇ

どうして急に、来たんだろう?

それとも前々から、来ることは決まっていたのかな?

ただ勇人さんが、あたしに言い忘れていた…とか?

何でもきっちりこなす勇人さんが、忘れるなんてないだろうし

どうしたんだろう?

勇人さんのお父さんは、ソファにどかっと座るとテレビをつけずに携帯をいじり始めた

またその後ろ姿が、勇人さんに似ている

初めて目にしたときの勇人さんの背中が、今のお父さんと頭の中で重なった



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