Be impatient
唇に触れる温かさでやっと実感する。

嬉しすぎて流れなかった涙も、そこでようやく零れ落ちた。

優しく触れていた唇が離れると、頬を伝う涙をヤナギさんが掌で頬を撫でる様に優しく拭った。

「帰るか。」

手を握られ廊下に出ると、蛍光灯の眩しさに目が眩む。

「あっ!」

突然の私の声にビックリした様に、ヤナギさんは目を大きくした。

「何?」

「仕事。終わらせなくて良かったんですか?」

そう言った私にヤナギさんは呆れた顔で「まだ分からない?」言うと前髪をかき上げた。

「ハラダさんを親睦会に行かせない為の口実だよ。」

「ええっ!?」

「ワタナベに掻っ攫われたら堪ったもんじゃないからな。」

苦笑いを浮かべるヤナギさんを見て、私はなんだか嬉しくなった。



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