Be impatient
エレベーターの前まで行くとボタンを押し、到着するのを待つ。

あの時と同じ様に二人並んで待つが、あの時と違うのはヤナギさんが私を見ているという事。

あれほど見てほしいと思っていたのに、いざ見つめられると照れるもので、私は俯いてしまった。

そのかわり握った手に少し力を入れる。

それに応えてくれる様に、ヤナギさんもぎゅっと握り返してくれた。

そんな些細な事が嬉しくて、私の頬は緩む。

そっと隣を見上げると、優しい眼差しのヤナギさんがいる。

ヤナギさんが醸し出す甘い空気に私は酔いしれる。

少し瞼を伏せたヤナギさんにつられる様に、私も瞼を落とすと唇に触れる温もり。

もう誰も残っていないフロア。

静まり返った廊下に響くのは、二人の吐息と衣擦れの音だけだった。



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