恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
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「おかえり、桃ちゃん」

自分ち――つまりお茶屋さんに足を一歩踏み入れたとたん、ただでさえしわくちゃな顔を、さらにいっそうしわくちゃにして、笑顔であたしを迎えてくれたのは馴染み客のひとりである桔梗姐(ききょうねえ)さんだった。

今でこそ、一見すると腰の曲がったタダのおばーちゃんにしか見えないんだけど、若い頃は巷で評判の美人芸者さんだった、って前におやっさんから聞いたことがある。

たしかに年齢を重ねたとはいえ、同年代のお年寄たちに比べると、こざっぱりとした着こなしが、なんとも粋でいなせな感じだった。


「いらっしゃいませ♪」


以前はイヤイヤながらにお店の手伝いをしてたから、お客さんにコノ「いらっしゃいませ」を言うのもけっこー面倒くさかったりしたもんだけど、メリーヒルズのカフェでバイトをはじめて以来、ごく自然なカンジで「いらっしゃいませ」が言えるようになっていた。


「桔梗姐さん、最近、腰の具合はどう?」

「歳はとりたくないもんさね。アチキも桃ちゃんくらいの年頃に戻りたいよ。あの頃はチョイとそこいらを歩こうもんなら、小股の切れ上がったイイ女だって、町じゅうのオトコ衆が振り返ったもんさね」
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