恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~

そう言って、横からクチをはさんだのレジで帳簿の整理をしていた父だった。

「継ぐかどうかはまだ決めてないよ」

「決めるのはお前ぇじゃねぇ。わが家の子供として生まれてきた時点で、お前ぇの将来は、とっくの昔に決まってたんだよ」


父の言葉にカチンときた。


「なにソレ? 横暴じゃん。あ~ァ、おにーちゃんが家の仕事を継がないで、遊園地に就職したキモチが分かるような気がするよ」

「なに言ってやんでぃ。もしお前ぇが隣のヒデ坊みてぇな親不孝しやがったら、そんときゃあ、お前ぇとは親子の縁を切る」


“ヒデ坊”っていうのは、赤井英雄――つまり、おにーちゃんのこと。おにーちゃんが小っちゃい頃から知っている父にしてみれば、いくつになってもおにーちゃんは、ずうっとヒデ坊のまんまなんだろう。


「今日だって、そうだ。実の父親が倒れて救急車で運ばれたってぇのに、連絡しても病院に顔さえ見せにこねぇ」

「えっ、おやっさん、また倒れたの?」

「今朝の10時頃だったかねぇ……」

母が説明をはじめる。

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