恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
「いつものように店でおせんべい焼いてたら突然倒れて、一時は大騒ぎだったんだよ。病院の先生の話じゃ、ガンの再発らしいよ」

「治ったんじゃ……なかったんだ……」


おにーちゃんの父親は、去年も仕事中に突然倒れて即入院になったことがある。

そのとき胃ガンの摘出手術は成功していたはずなんだけど、それが今日になって、また倒れて入院したってことは、ガンがまた別の箇所に転移したってことなんだろうと思う。


「おやっさんもかわいそうなこった。担当の先生の話じゃ、何度もうわごとでヒデ坊の名前を呼んでたそうだ」

「あたし、おにーちゃんに電話してみるっ」

学生カバンを床にほっ放り出して、ケータイのリダイヤルボタンをプッシュするあたし。


だけど……、


だけど仕事中なのか、それとも無視してるだけなのか、いくらコールしても電話はいっこうにつながらない。

「あたし、行くからっ」

「行くって、どこに?」

「決まってんじゃん、おにーちゃんのとこだよっ。行って、首に縄つけてでも、おやっさんの前に連れてきてやるんだからっ」
< 125 / 263 >

この作品をシェア

pagetop