恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
「ン? なんだ? 呼んだか?」


「呼んでみただけェ~♪」


「……って、オイっ」


「だって、こーいうの久しぶりだしぃ♪」


「そーだな……ざっと3年ぶりか……」


おにーちゃんは3年前、体育大学に入学するために浅草の実家を出て、東京郊外の大学近くのアパートに引っ越してしまった。

本来なら一人息子として、家業のおせんべい屋さんを継ぐべきだったんだけど、もともとカラダを動かすのが好きだったおにーちゃんは、狭いお店の中で一日中おせんべいを焼いて過ごす生活がガマンならなくて、それで体育の先生になることを決めたってワケ。


大学進学にあたっては、おやっさん――つまり彼の父親とのあいだで、ものすごいバトルがあった。

かたや、遠方からやってくる古くからのなじみのお客さんも多いおせんべい屋さんをなんとか息子に継がせたいと願うおやっさん。

そして、かたや、「じっとしてると死んじまうんでぃ!」とまで言い張るおにーちゃん。

江戸っ子気質のガンコ者の親子ふたり。


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