恋ジグザグ~“好き”と素直に言えなくて~
「すいません……あたしのせいで……」
店の奥に入ると、あたしはハンカチで濡れた紫苑さんの髪の毛と顔を拭きながら言った。
「“水も滴るイイ男”って言いたいところだけど、女のコの前で土下座なんて、めちゃめちゃカッコ悪いよね?」
「そ、そんなことないですっ。助けてくれて本当にうれしかったですっ。紫苑さん、正義のヒーローみたいにカッコよかったですっ。あたし、なんかお礼がしたいですっ」
「お礼かァ……じゃあ、ボクの言うこと1コだけ聞いてもらえるかな?」
「えっ? 紫苑さんの言うこと聞くんですか? いいですよ。あたしにできることだったら」
そう返事はしたものの、内心、彼にどんなことを言われるのか、頭の中でいろんな妄想がグルグルめぐった。
もちろん、その妄想の中にはちょっとエッチっぽいのもあったりした。
だけど実際、彼のクチから出てきた言葉は、あたしの思いもよらないものだった。
「じゃあ、ボクからのお願い……桃香ちゃん、ボクにキミのココロの声を聞かせてよ」
「え……あたしのココロの声……ですか?」